蒲焼きが引き出す鰻の旨み
蒲焼という料理法がなかったら、鰻はこれほど日本人に愛されていただろうか。難しい素材をうまく調理したものである。
室町時代から江戸時代を経て、現代の蒲焼へと、その伝統は受け継れてきた。地方によってその蒲焼の方法は異なり、関東と関西でも違ってくる。関東流は背裂きにして二つに切ってから、竹串に刺して、皮の方から焼き始める。
関西は、腹裂きにして、背鰭、尾鰭、頭をつけたまま金串に刺し、皮から焼く。
良質な鰻が獲れた上野界隈には小屋掛け程度の簡易な造りの蒲焼屋が建ち並んだという。串打ち3年、裂き8年、焼き一生といわれる匠の技がつまった鰻。その真髄を味わえる名店を、上野エリアから7つご紹介。
①根ぎし 宮川
絶品の鰻ざく
鶯谷駅南口を出て根岸方面へ歩く。かつては下谷根岸町と呼ばれた旧花街。花街としては下谷の方が古く、根岸は大正10年に三業地としての許可を得ている。当時は東京の東側が繁華街であった。
「鰻ざく」とは、うなぎときゅうりの酢の物のこと。うなぎの蒲焼きを、よく冷やしたきゅうりの酢の物と一緒に食す。やわらかく旨味たっぷりのうなぎと、シャキシャキとした食感のきゅうりは相性抜群だ。こちら「根ぎし 宮川」の鰻ざくは他店を凌駕する絶品だという。
鰻重は言うまでもなく絶品だが、鰻コース料理も長年変わりなく、美味しい料理をたっぷり楽しめる。アイナメを鱧のように見せたお椀、美味しく漬かった真鯛の西京漬け、ヒラメ縁側、金目鯛刺身、鴨と竹の子、桜えびの天婦羅、など。見た目にも美しい品々を比較的リーズナブルに楽しめる。
②龜屋 一睡亭
浮かぶ蓮を眺めて
東京メトロ銀座線上野広小路駅C6出口からすぐ、不忍通り沿いにあるお店「龜屋 一睡亭」。
静岡の『霜降りうなぎ』という希少な鰻を使用とのこと。
鰻はいわゆる関東風で、蒸しの工程を経た柔らかさ。関東風の中でもとりわけ柔らかい印象だ。これに比例するように米の炊き具合も柔らかく、ふんわり柔らかな食感と濃すぎないタレで仕上げた蒲焼となっている。
不忍池に浮かぶ蓮を眺めながら、ごゆるりと。
③鰻割烹 伊豆栄 本店
江戸中期から続く江戸前うなぎ
現在では、「江戸前」という響きに寿司を思い浮かべる人が多いだろう。かつて東京が江戸と呼ばれた時代、「江戸前」と言えば鰻の代名詞だった。
時は八代将軍・吉宗の時代、上野池之端で伊豆榮は産声を挙げた。良質な鰻が獲れた上野界隈には小屋掛け程度の簡易な造りの蒲焼屋が建ち並び、当店もそんなささやかな蒲焼屋の一つだったと言い伝えられている。
伊豆榮で使用している鰻は、日本全国を探し辿り着いた三河一色産。その中でも出来るだけ自然に近い環境で特別に育てられた「三河鰻咲(みかわまんさく)」というブランドにこだわっている。
病気一つすることなく健康に育った鰻は、肉厚でほどよく脂がのった身に旨味を蓄え、ふっくらと柔らかい蒲焼きに。いつでも最高の鰻を提供できるのは、こうした産地の方々が手塩にかけて育てているから。
本店は御徒町駅すぐ。
土日祝日11:30-21:00
④鰻割烹 伊豆栄 梅川亭
上野公園で閑雅な眺望
公園の中にあり、「本店より雰囲気がいい」とも称される梅川亭。窓の外に広がる上野の森が梅川亭の魅力だ。
300年受け継がれる「焼き」の極意がその三河一色産の鰻の美味しさを最大限に引き出す。江戸前の鰻は、背から開いて串を打ち炭火で焼いた後、ふっくらと蒸し上げて余分な脂を落とし、その後にたれに浸して焼き上げる。
鰻職人は俗に「裂き三年、串八年、焼き一生」と言われ、微妙な焼き加減一つでその仕上がりに大きな差が生まれる。火の通し方の間や煙のまわし方など、300年にわたり“名人”と呼ばれる職人たちを育て、その「焼き」の技術を受け継いできた。熟練の職人が磨き続けてきた技が、ふっくらと香ばしい蒲焼を生み出す。
上野の緑を覗きながら、優雅な昼食を。
土曜・日曜・祝日11:30-20:30
⑤鰻 かねいち
絶品うなぎをお安く
御徒町駅のオフィスエリアにひっそり佇む街場の気さくな鰻店。お通しのもずく酢が好評である。
特上うな重はボリューミーながら3200円とリーズナブル。「この量でこの値段!?」というリアクションをこらえながらいただく。
まずは肝吸いで舌準備。そして蒸し焼きのフワッと柔らかい鰻に舌鼓。タレに少し甘味があり、シャープすぎる鰻とは違う。焼きも入っていて軽めの香ばしい香りが良い。
⑥銀座 鳴門 上野松坂屋店
激うま鰻のイートイン
地元に愛される百貨店から、イートインのお得グルメをご紹介。
松坂屋上野店の地下1階、通称「ほっぺタウン」にある「銀座鳴門」ではうなぎ蒲焼、うなぎ白焼、うなぎ弁当などのうなぎ料理にとらふぐ刺身、とらふぐ煮凝りなどのとらふぐ料理が店頭販売されている。
宴席土産のうなぎ弁当が少なくなった今はデパ地下のうなぎ弁当がその役割の一端を担っている。松坂屋上野店で2016年4月に行われた「春の行楽弁当」の人気投票で銀座鳴門のうなぎ弁当は堂々の1位を獲得した。「浅草今半」や「美濃吉」などの特別誂えの弁当を抑えて、通年食せるうなぎ弁当が1位を獲得するという強さぶり。
飴色に丁寧に焼かれた綺麗な蒲焼。お新香に奈良漬があるのも嬉しい。小骨に注意の貼り紙があるが、全く気にならない。ふっくらとろける食感に相性良くたかれたご飯。デパート内という制約の中で出来うる仕事をきちんとこなしているのが窺える。
紀州有田の大粒のぶどう山椒を使用しているとのこと。緑の色が鮮やかで、香りが良い山椒はうなダレご飯の美味しさを引き立てる。
美味しくいただいていると、デパ地下イートインということを忘れさせる。
⑦新橋 登亭 上野広小路店
アメ横の名店
黄色が映えるフレッシュな看板が目印の鰻屋。アメ横入り口の交差点からすぐのところにある。
グラス生ビールをぐびっと飲みながら、アテは肝焼、倶利伽羅、ひれ巻の串。これが酒に合う。
数量限定の「ランチうな丼」は2000円となかなかリーズナブル。ふっくらした食感の中にふわっと鰻の香りが広がり、美味。