店主の想いにあふれる一杯
神保町といえば書店の街。そして界隈には出版社や印刷会社、さらには大学も多く、昼どきになればサラリーマンや学生が安旨ランチを求めてそぞろ歩く。そのおめがねに叶うメニューといえばラーメンがはずせない。カレーの聖地として名高い神保町だが、ラーメンの名店がそろう街としても有名だ。
おいしいラーメン店は数あるなかで、この記事ではほかとはちょっとちがう個性派ラーメン店をお届けする。唯一無二の一杯にかくれた店主の想いや店誕生のストーリーを知れば、また一味も二味も違ってくるはずだ。
神保町の個性派ラーメン8選(目次)
店舗 (クリックで詳細) |
特徴や内容 |
① 肉そば総本山神保町けいすけ | 肉まみれになりたい人集合! |
② 海老丸らーめん | 海老×飽くなきチャレンジ精神の店 |
③ 蟻塚 | 醤油回帰、とはいえ塩もすてがたい |
④ 排骨担々 五ノ井 | 今はなき渋谷の名店の味が復活 |
⑤ 濃厚蟹みそラーメン 石黒商店 | 芳醇な蟹のエキスがぶわっ。 |
⑥ 鶏ポタラーメンTHANK お茶の水 | 野菜の旨みに癒される |
⑦ 八咫烏(ヤタガラス) | スープへのこだわりは神話級 |
⑧ 麺 半蔵 | デカ豚×デカ盛りで腹ペコ学生を救う |
① 肉そば総本山神保町けいすけ
肉まみれになりたい人集合!
肉そばブームの火付け役となった「肉そばけいすけ」の本家本元。鴨やふぐを使った他業態のラーメンも好評だが、やはりファンの魂を揺さぶるのは肉そば。これでもかというほどの肉まみれ体験をここ神保町で。
今日は特別肉を欲するあなたにおすすめしたいのは「肉そば醤油スペシャル」。丼からはみ出すチャーシューは異なる3種、150g超え。麺やスープとコラボ食べにぴったりな肩ロース、脂の甘みと香ばしさが際立つ豚バラ、ジューシーさと歯ごたえが魅力の豚トロ、それぞれのおいしさを余すところなく味わって。
真っ黒なスープは見た目からの予想に反してすっきりの後味。もちもちとした中太縮れ麵によく絡み、肉でおなかいっぱいのはずがあんがいペロッと食べられる。毎月29日は肉増し券プレゼントにつきカレンダーのリマインド設定を。
② 海老丸らーめん
海老×飽くなきチャレンジ精神の店
京橋にあるフレンチの名店「シェ・イノ」で修行を積んだシェフが編み出す “フレンチとらーめんの融合”。オマール海老から出汁をとったそれは正真正銘の海老ラーメン。オマール海老を殻ごと削り入れたかのような豊かな海老の香りと濃厚クリーミーな味わいが他では決して味わえない体験を約束する。
初回のおすすめは「元祖海老丸らーめん」(880円)+ リゾット(300円)。もちもちの平麺をすすり、柔らかなローストポークを噛みしめながらサワークリームを溶かし入れれば、さらなるコクと爽やかな味変を楽しめる。贅沢なスープは最後の一滴まで堪能するべし。熱々の鉄鍋に入った卵かけごはんにスープをかけ、山盛りチーズをトッピングして全体をくまなく混ぜれば特製海老リゾットの完成だ。
「海老丸カルボナーラ」「濃厚胡麻らーめん」「丸ごと一匹オマール海老らーめん」、さらに季節限定の応用メニューも要チェック。高級食材をあつかう店ながらサービス丼50円の良心に、思わず涙があふれそう。
[土日祝] 11:30-20:00
③ 蟻塚
醤油回帰、とはいえ塩もすてがたい
オープンして5年後の2019年にメニューを大幅リニューアル。新しいラーメンは「中華SOBA」と「山椒塩SOBA」いずれも800円。生まれてこの方17年の歳月をラーメンに捧げてきた店主が試行錯誤の結果、今いちばん伝えたい味としてたどり着いたのは醤油ラーメンだという。その覚悟が丼の上に結実した中華SOBAは、鴨と大山鶏のまろやかな旨味が体の芯まで染みわたる上品なスープが最大の魅力。生姜のきいたチャーシューやなめらかなしこしこストレート麺との相性も抜群だ。
とはいえ塩への愛着も相当で、山椒塩SOBAのリピートファンも絶賛増殖中。澄んだスープのきれ味とピリピリと舌で弾ける山椒の辛みは一度食べたらやみつきになるおいしさだ。食感とともにスパイシーさを助長するトッピングのごぼうも心憎いアクセント。
プラス200円で唐揚げや餃子と白飯または味玉がセットに。満腹中枢を満たしつつ、店長のラーメンへの想いとこだわりをじっくりと味わってみて。
④ 排骨担々 五ノ井
今はなき渋谷の名店の味が復活
2018年まで渋谷の南口に「亜須加」という人気のラーメン店があった。大規模開発のために惜しまれつつ店をたたんだが、もとは昭和40年代に中華料理屋として創業した老舗だ。亜須加の厨房で腕をふるった料理人が2018年にのれんを掲げ、亜須加の看板メニューだった「排骨(パーコー)担々麺」を復活させたのが五ノ井だ。
注文が入ってから揚げる熱々の排骨は外はサクサク、中身はジューシー。一番おいしい状態で食べてもらうために予熱で火が通る時間も換算して揚げているのだとか。真っ赤な麻辣スープは濃厚ながら予想以上にさっぱりとした味わい。自家製ラー油も辛さ控えめで胡麻ダレのまろやかさを加え、どこかホッとするやさしい味に仕上げている。
ほかラーメンや、味噌ラーメン、冷やし坦々麺などいろいろなメニューに自慢の排骨がのる。がっつり食べたい日は排骨とチャーシューダブルのせの「排骨担々ミックス盛り」がおすすめ。派手目の外観だが店内は落ち着いたカウンター席なので女性のひとりラーメンも気兼ねなく。
[土曜] 11:00-16:00(通し営業)
※変更の可能性あるため要Twitterチェック
⑤ 濃厚蟹みそラーメン 石黒商店
芳醇な蟹のエキスがぶわっ。
ど・みそ京橋で修行を積んだオーナーがふるまう蟹出汁がきめての個性派味噌ラーメンのお店。そう、酒のアテにするあの蟹ミソではなく、蟹×味噌の異色コラボを楽しむラーメンが自慢だ。
店中に満ちる蟹の香りに食欲と好奇心をそそられつつ、まずは基本の「濃厚蟹みそラーメン」(880円)を注文すべし。薄茶色に艶めくスープをひと飲みすると、言葉どおり濃厚極まりない蟹の風味がぶわっと口の中に広がる。その直後に絶妙なバランスで追いかけるコクとまろやかさは、老舗味噌専門店「噌ムリエ」と共同開発した特製味噌のなせる技だ。
タレしみしみのチャーシューや香り豊かな岩のりも完成度を一気に引き上げるアクセント。蟹好きはもちろん、生粋のラーメンファンもまちがいなく納得の一杯だ。店主の石黒さんと厨房を切り盛りする奥様のちょっとシュールなブログもぜひのぞいてみて。
※土曜・祝日は21:00まで
⑥ 鶏ポタラーメンTHANK お茶の水
野菜の旨みに癒される
まるでカフェのようなおしゃれな店構え。木のぬくもりあふれる店内では、あれ?何やらアジアンなおつまみ片手にビールやワインを乾杯する人の姿も。ここはれっきとしたラーメン屋なのだが、お酒を飲みながらゆるりと語らいの時間を過ごせる一風変わったお店なのだ。
なにより風変りなのはスープだろう。ベースは鶏と野菜のポタージュを使ったオリジナルの「鶏ポタスープ」。野菜はじゃがいも、にんじん、長ネギ、玉ねぎ、大根、きゃべつ、セロリ、白菜など種類豊富で季節でまた変わるのだとか。不化調にこだわるそのお味は野菜の旨みと甘みででこっくり濃厚ながら自然派ならではのすっきり感が信条だ。
鶏ポタのおいしさをシンプルに味わえるラーメンをはじめ、甘酢と香辛料でアジアンな魅力のつけ麺や、自家製ラー油と具材たっぷりの「鶏ポたんたん麺」、チーズと卵で洋風仕立ての「トリポターナ」など個性派麺がせいぞろい。こんにゃく麺への変更も可能で夜のラーメンはちょっとという女性のハートもわしづかみにする罪なお店。
※土曜は昼営業のみ
⑦ 八咫烏 (ヤタガラス)
スープへのこだわりは神話級
ベルサール九段横の路地裏にひっそりとたたずむ八咫烏は、ラーメン通なら知らぬ人はいない名店中の名店。日本酒が並ぶバーのような落ち着いた店内に一抹の緊張をおぼえるが、店主は気取らない人柄でその点も人気の秘訣。
動物系の出汁をいっさい使わず、野菜や枯れ鰹をじっくり煮込んだスープは雑味のないクリアな味わい。そこに鶏油とオリーブオイルベースの香味油がこくを加え、味にふくよかな厚みを持たせる。
その絶品スープを下地としたラーメンは、群馬の生醤油を加えた「黒」と出汁の風味を最大限に楽しめる「塩」の2本立て。全粒粉の細麺はつるつると喉ごしがよく、スープのおいしさをさらに引き立てる。より特別な一杯とをいうのであれば「特選」のオーダーがマスト。真空低温調理された豚肩ロースの焼き豚や旨みたっぷりのワンタンが悠然と鎮座し、風格すらただよう。
※土曜は昼営業のみ
⑧ 麺 半蔵
デカ豚×デカ盛りで腹ペコ学生を救う
神保町交差点近くにド派手な黄色の看板を発見。人気店がしのぎを削るここ神保町に昨今、「デカ盛り」を武器い新しい風を吹き込むニューフェイス。腹ペコ学生、スタミナ切れサラリーマンの次新時代の聖地となるか。
店のいちおしは200gはありそうなデカ豚がのっかる「デカ豚ラーメン」(920円)。背脂の浮くまろやかな豚骨醤油スープとそれが飛び散ることも気にせず盛大にすすりたい平太麺が土台を固める。そこに無料にトッピング、野菜・ニンニク・辛め・油・カレーマヨ・辛揚げ(辛い揚げ玉)を追加して自分流にカスタマイズするのがこの店の流儀。最近野菜不足だから…くらいの軽い気持ちで「野菜マシマシ」をたのんだ日には総重量1.5kgのマウンテン野菜が攻めてくるから悪しからず。
1回目から円滑に食べすすむのは至難の技かも。通ううちに箸さばきのコツを体得して。しばらくは御免と思ったはずがまたデカ盛りっぷりに会いたくなる、その中毒性にもご注意を。
[土曜] 11:00-21:00
[日曜・祝日] 11:30-19:30
まとめ
以上、神保町の個性派ラーメン店8選を紹介した。ほかの料理もさることながら、ラーメンは店主のこだわりやそこに通うファンの思いが強くて熱い。さらに好みは十人十色で、「自分だけの特別な店」はここにあげた8店に限らず、それぞれのファンの中にあるのだろう。立ち並ぶ本屋の専門性を見ればわかる神保町という街の “こだわり体質” 。そんな個性あふれるエリアで、新しいマイベスト・ラーメンを探してみてはいかがだろう。